SPAN証拠金(6) --- 16のシナリオと証拠金の計算―2011/02/06 16:39

これまでに、説明したプライス・スキャンレンジ、ボラティリティ・スキャン・レンジという二つの主なパラメータを使って、明日起こりうるマーケットの状況をシミュレートしてSPAN証拠金を計算します

これまでに、説明したプライス・スキャンレンジ、ボラティリティ・スキャンレンジという二つの主なパラメータを使って、明日起こりうるマーケットの状況をシミュレートしてSPAN証拠金を計算します。16のシナリオに基づいて、シミュレーションして、16通りの明日のオプションの価格を計算して、今日のオプション価格と比較して、想定される最大の損失額をSPAN証拠金とします。文章の説明だけではわかりにくいので実例を基に話を進めましょう。

 

まず、16のシナリオを具体的に決定するために、プライス・スキャンレンジ、ボラティリティ・スキャンレンジの数字を調べましょう。2011/2/4の数値は下記のとおりです。

日経平均

10,543.52

プライス・スキャンレンジ

270

ボラティリティ・スキャンレンジ

4.2%

 

16のシナリオの日経平均価格とボラティリティの変動率は次の表のような組み合わせです。右側の表には実際の数字を入れてみました。

シナリオ

日経平均

ボラティリティ

 

シナリオ

日経平均

ボラティリティ

1

不変

上昇

 

1

10,543.52

+4.2%

2

不変

下降

 

2

10,543.52

-4.2%

3

1/3上昇

上昇

 

3

10,633.52

+4.2%

4

1/3上昇

下降

 

4

10,633.52

-4.2%

5

1/3下降

上昇

 

5

10,453.52

+4.2%

6

1/3下降

下降

 

6

10,453.52

-4.2%

7

2/3上昇

上昇

 

7

10,723.52

+4.2%

8

2/3上昇

下降

 

8

10,723.52

-4.2%

9

2/3下降

上昇

 

9

10,363.52

+4.2%

10

2/3下降

下降

 

10

10,363.52

-4.2%

11

3/3上昇

上昇

 

11

10,813.52

+4.2%

12

3/3上昇

下降

 

12

10,813.52

-4.2%

13

3/3下降

上昇

 

13

10,273.52

+4.2%

14

3/3下降

下降

 

14

10,273.52

-4.2%

15

極端に上昇(3)

不変

 

15

11,353.52

+0.0%

16

極端に下降(3)

不変

 

16

9,733.52

+0.0%

 

表の中の、1/3上昇とは、日経平均がプライス・スキャンレンジの1/3、すなわち90=270*1/3、上昇するという意味です。シナリオ1516の「極端に」とは、プライス・スキャンレンジの3倍、すなわち810=270*3、上昇・下降させますが、算出される損失を30%に減らしています。具体的には後程説明します。

 

ボラティリティの上昇、下降はそれぞれ、ボラティリティ・スキャンレンジの4.2%ずつの変化になります。ボラティリティは権利行使価格ごとの銘柄により異なりますので、その銘柄ごとの今日のボラティリティの値に、+4.2%または、-4.2%を加えます。仮に3月限月のプット9000円のボラティリティが27.3%だとすると、上昇のシナリオでは、31.5% = 27.3% + 4.2%、下降のシナリオでは、23.1%= 27.3% - 4.2%、不変のシナリオでは27.3%となります。

下の表に、個々のシナリオごとの計算方法をまとめてみました。

 

日経平均の変動

日経平均(想定)

計算方法

極端に上昇(3)

11,353.52

=10543.52+(270*3)

3/3上昇

10,813.52

=10543.52+(270*3/3)

2/3上昇

10,723.52

=10543.52+(270*2/3)

1/3上昇

10,633.52

=10543.52+(270*1/3)

不変

10,543.52

=10543.52+(270*0/3)

1/3下落

10,453.52

=10543.52-(270*1/3)

2/3下落

10,363.52

=10543.52-(270*2/3)

3/3下落

10,273.52

=10543.52-(270*3/3)

極端に下落(3)

9,733.52

=10543.52-(270*3)

 

ボラティリティの変動

下落

-4.2%

不変

0.0%

上昇

+4.2%

 

それでは、以下の条件に基づいて実際に計算してみましょう。

  日付:2011/2/4

  日経平均終値:10,543.52

  限月:2011/2月限

  権利行使価格:10,250円 プット

  清算値:4.55円 (終値は14円)

   インプライド・ボラティリティ (IV): 17.1%

 

Span証拠金の基本コンセプトは、明日起こりうる最大の損失額を証拠金とする、ということですから、16のシナリオに基づいて「明日の価格」を計算することがスタートポイントです。「明日の価格」は、オプションとは切っても切れないブラック・ショールズ式を使います。ブラック・ショールズ式とは何かについては経済学者の論文にお任せして、EXCELや証券会社のサイトなどを使って計算しましょう。

ブラック・ショールズ式でオプション価格の計算をするために必要なパラメータは以下の7つです。

  1) 原資産価格 (日経平均):

  2) プット・コール:

  3) 権利行使価格:

  4) インプライド・ボラティリティ (IV: Implied Volatility) :

  5) 金利率 (年率):

  6) 配当率 (年率):

  7) 残存期間:

 

シナリオ1316の具体的な数字を当てはめてみましょう。

 

シナリオ13

シナリオ16

日経平均:

10,273.52

9,733.52

プット・コール:

P

P

権利行使価格:

10,250

10,250

IV:

21.3%

17.1%

金利率 (年率):

0.14%

0.14%

配当率 (年率):

0%

0%

残存期間:

0.008219

0.008219

 

日経平均とIVに関しては、シナリオのルールに基づいて、

シナリオ13  =10543.52-(270*3/3)   17.1%+4.2%

シナリオ16  =10543.52-(270*3)     17.1%+0%

のようになります。

 

金利率は、全銀協の公表している数字で、大証から発表されるSPANリスク・パラメーター・ファイルの中に入っています。2011/2/42月限月に適用される金利率は0.14%です。配当率は、2月限月の場合、2SQ2/10まで配当落ちの日経平均採用銘柄はありませんのでゼロです。

残存期間は、取引日から2SQ2/10までの日数を365で割ったものです。今、2/4の時点で明日のオプションの価格を求めています。すなわち、2/4からみて翌営業日2011/2/7 (2/5-6は土日です)を取引日とします。2/7から2/10まで3日間で、

残存期間 = 3 / 365 = 0.008219 となります。

EXCELを使って計算したオプションの理論価格と想定される損失額は下記のとおりです。オプションの場合、単価1円は1000円に相当しますので、損失額は単価の差の1000倍になっています。

 

シナリオ13

シナリオ16

本日の価格(清算価格)

4.55

4.55

2/7の理論価格

67.79

516.38

売手の損失額

63,240

511,830

損失額の30%

---

153,549

 

シナリオ16の場合、単純な損失額は511,830円に上りますが、シナリオ15とシナリオ16の場合は、損失額に30%をかけたものにするというルールがありますので、30%を乗じると153,549円となります。想定される損失額は、シナリオ1363,240円、シナリオ16153,549円ですので、シナリオ16の損失額の方が大きくなります。

 

本来であれば同様にシナリオ1から16まですべて想定損失額を計算しなければいけないのですが、結論から言いますとプットの場合は、シナリオ13かシナリオ16のいずれかの損失額が最大になります。一方、コールの場合はシナリオ11かシナリオ15の損失額が最大になります。これはシナリオのテーブルをじっくりと眺めていただければご理解いただけると思います。プットの場合は、価格が大きく下落して、IVが大きく上昇するのが、売り手にとって最悪のシナリオです。コールの売り手にとっては、価格が大きく上昇、IVが大きく上昇という組み合わせが損失が膨らむパターンです。

 

2011/2/42月限月 10,250円プットの2/7に最大の損失になるのはシナリオ16で、損失額は153,549円となります。Span証拠金では、この153,549円を100円単位に丸めた153,500円をスパンリスク(Span Risk)、スパンリスクに2/4の清算値(ネットオプションバリュー: Net Option Value) 4.55円、金額は1000倍にした4,550円を足した158,050円が10,250円プットの証拠金となります。

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