SPAN証拠金(4) --- インプライド・ボラティリティ ― 2010/12/09 15:31
今回もSPAN証拠金から多少外れますが、オプションの変動率について考えて見ましょう。
変動率とひとことで言いましたが、オプションで使う変動率は、インプライド・ボラティリティ (IV: Implied Volatility) といいます。Impliedを直訳すると、「暗示」とか「暗黙」というような意味です。直訳すると、“誰かによって暗示された変動率”ということになります。変動率というものの言葉から受ける印象は、「誰かのお告げ」みたいでとても数学的に計算できるようには思えません。実は、この直感的な印象は大正解です。
よくオプションは保険にたとえられます。Putは、日経平均下落に備える保険、Callは、日経平均上昇に備える保険といえるでしょう。
日経平均が10,000円のときに先物や現物株を買っていて、もちろん上がると思って買うわけですが、下落したら大きな損をしてしまうので、万が一に備えてPut 9500円を買います。日経平均が9500円以下になれば利益が出て、先物や現物株の損失を補填することができます。同様に先物や現物株を売建てていれば、日経平均が上昇するリスクに備えて、Call 10500円を買って、保険とすることができます。
通常我々がかけている自動車保険の保険料は、統計的な手法により保険事故が発生する確率を精緻に算出し、保険金支払いというリスクに見合う金額を保険料としています。さらに、翌年以降は、被保険者が事故を起こしたかどうかという実績に基づき、いわば運転者のリスク・ファクターが加味され、無事故であれば保険料は割引され、逆に事故を起こすと翌年の保険料はあがります。
大きな船舶の場合は、ロンドンのロイズ保険組合に、リスクを引き受けて対価を得るアンダーライター(Underwriter)がいて、保険の引き受けをしています。アンダーライターは、被保険者である船主の運行実績、船の積荷の種類、主な航路、そして、通過する地域の紛争などのリスクファクターを個別に精査して、保険料を提示します。ソマリア沖の海賊被害頻発や黄海での北朝鮮の砲撃など刻々と変わる世界情勢を反映して保険料は日々変化しています。
リーマンショックが起きたときの、Putの価格は恐ろしいほど上昇しました。市場に「リーマンショック」という予想もしていなかった新たなリスク・ファクターが出現したことにより、人々は日経平均が大きく下落するに違いないと考えて、競って下落リスク保険であるPutを買ったのです。同時に、政府や中央銀行から早急な対策が打ち出されると相場が急回復する可能性もあると考えたのでしょうかCallも上昇しました。平常時であれば、合理的に算出される保険料が、人々がパニックに陥っている状況下では異常な値を示しました。まさに人々の市場への不安心理がオプションの価格に大きな影響を与えたのです。
ところで、オプションの価格は、有名なブラック・ショールズ式 (BS式: Black & Scholes Formula) によって算出することができます。この複雑な公式を計算して、オプション価格を得るためには、下の7つの変数をBS式に代入する必要があります。
現資産価格 (日経平均): 例) 10,000円
プット・コール: プット(プット・コールにより一部式が異なります)
権利行使価格: 9,500円
満期日(SQ)までの日数: 25日
金利率: 0.18%
配当率: 0.11%
インプライド・ボラティリティ: 25% (?)
現資産価格から配当率までは、調べれば分かります。ただし、インプライド・ボラティリティは一体どんな数字を入れればいいのか迷ってしまいます。解答はどこを調べれば分かるのでしょうか? “誰かによって暗示された変動率”――インプライド・ボラティリティは、いったい誰が暗示してくれるのでしょうか?
「前日のインプライド・ボラティリティを使う。」
「証券会社のWEBに表示されているインプライド・ボラティリティを使う。」
しかし、それらはどうやって計算しているのでしょうか、その答えはどこを探しても見つかりません。
ところが、ふと気がつくと、今、算出しようとしているオプションの価格は、BS式で計算するまでもなく、証券会社のWEB上で簡単に見つけることができます。しかもこの価格は現時点で取引されている価格ですから、疑いようがない正しい価格です。
そうなると、BS式は、オプション価格を計算するのではなくて、インプライド・ボラティリティを逆算する式だといえるかもしれません。もっと正確に言うと、EXCELのゴール・シークのように、計算結果が現在のオプション価格になるよう、BS式に代入するインプライド・ボラティリティの値をいろいろと変化させて、試行錯誤法で見つけ出す、そういうイメージではないでしょうか。
以上を踏まえて、あらためてインプライド・ボラティリティは何か考えてみましょう。他の6つの変数が、オプション価格の理論的な構成要素とすると、インプライド・ボラティリティは、それ以外の理論では説明がつかない要素、ちょっと飛躍かもしれませんが投資家のマーケットに対する不安心理と考えてみてはどうでしょう。リーマンショック時の投資家の心の叫び、
「日経平均は大きく下げるぞ」
「いや、金融当局が何か手段を講じると急反発するかもしれない」
「いずれにしても、相場は大荒れだ」
そんな不安心理、相場の先行きに対する投資家の迷いや、恐れ、そんな心理がインプライド・ボラティリティを通して、実際に取引されているオプション価格に反映されると考えてはどうでしょう。
“誰かによって暗示された変動率”とは、“投資家が想定しているマーケットの変動率”であり、刻々と変わる“投資家の不安心理のバロメーター” と言えます
(閑話休題) VIX指数
最近、「今日の株式市場」を占う上で、シカゴ・オプション取引所(CBOE:Chicago Board Options Exchange) に上場しているVIX指数の動きが注目を集めています。VIX指数は、俗に「恐怖指数」と呼ばれています。VIXは、S&P500指数オプションのインプライド・ボラティリティを指数化して取引しているものです。VIXが21.5とは、S&P500指数オプションのインプライド・ボラティリティの平均がおおよそ21.5%であるいうことを示しています。
VIX指数は、世界の市場の変動率及び投資家のセンチメントの極めて有効な先行指標と考えられています。 (CBOEホームページより)
コメント
_ (未記入) ― 2011/06/07 20:06
_ DNI ― 2011/06/10 21:50
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