価格逆転時のデビットスプレッド2011/05/14 17:10

チャムさんから下記のご質問をいただきました。

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例えば、314日夜間のようにプレミアムが行使価格間で逆転した時 SPAN証拠金の計算はどうなりますか?

4P850 970円、4P900 310円の時、4P8501枚売り、4P9001枚買いの デビットスプレッド(ベアスプレッド)を組んでいた場合について詳しくご教授ください。

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まず事実関係を確認してみましょう。

証拠金算出の大前提ですが、夜間取引を含め、場中の動きがどうあれ、日経平均と各オプションの引け値をベースに計算を行います。当日の日経平均の終値は、8605.15円で、4P8504P900の終値と証拠金は下記のようになっています。

 

銘柄

終値

IV

証拠金

SPAN RISK

NOV

8500P

540

63.60%

695,900

155,900

540,000

9000P

760

54.41%

958,600

198,600

760,000

 

これを見る限り、価格も証拠金も逆転現象は起きていません。たとえ、夜間取引で価格の逆転現象が起きていたとしても、引けの段階で、540円、760円というある意味正常な価格体系に戻っているので、これだけを見ると夜間取引の混乱は最終の数字からうかがい知ることはできません。このパラメータから計算した、850P売り、900P買いのベアスプレッドの証拠金はゼロです。Span RiskS12で最大の432(100円単位なので43,200)ですが、Net Option Value760,000-540,000=220,000円で、証拠金=Span Risk – NOV= 43,200 - 220,000 = -176,800円とマイナスの証拠金となりますのでゼロです。

これはオプションをいくらで売ろうが買おうが関係ありません。このため、P850970円で売り、P900310円で買うことができていれば、証拠金はゼロな上に、手元に売り買いプレミアムの差額660,000円が残ることになります。

このポジションの16+1のシナリオの計算結果は下記の通りです。(+1は最低証拠金です。)

 

プット・コール

権利行使価格

S1

S2

S3

S4

S5

S6

P

8500

234

-497

-163

-895

654

-73

P

9000

-235

461

301

1020

-795

-125

 

 

-1

-36

138

125

-141

-198

 

プット・コール

権利行使価格

S7

S8

S9

S10

S11

S12

P

8500

-540

-1270

1095

376

-895

-1621

P

9000

812

1551

-1379

-738

1299

2053

 

 

272

281

-284

-362

404

432

 

プット・コール

権利行使価格

S13

S14

S15

S16

S17

P

8500

1559

851

-885

1355

70

P

9000

-1986

-1378

1230

-1765

0

 

 

-427

-527

345

-410

70

 

 

さらに、夜間取引の4本値を調べてみました。

 

始値

高値

安値

終値

8500P

140

16:30:01

975

20:43:41

110

17:07:54

205

23:30:01

9000P

245

16:30:01

990

20:49:36

195

17:07:53

320

23:30:01

 

チャムさんがおっしゃる通り、850P20:43:41975円という高値を付けています。ただし、残念ながらその時のスクリーンコピーが手許にはありませんので、その時点で900Pの価格がいくらだったかわかりません。終値が320円ですから、イブニングセッション中に310円で買うことは十分可能です。ただ、900Pもその6分後に990円を付けています。実は、この時私はPCを見てびっくりしていました。突然、信じられない価格の買い気配になって、そして信じられない価格で取引が成立しましたが、すぐにまた元の水準に戻りました。このため、850P970円で売れたかどうかはちょっと疑問です。そして、この現象はいくつかの銘柄に時間差で発生しました。今となっては詳しい記録がありませんので4本値から推測するしかありません。少なくとも、850P875P900Pで発生したようです。この突然、買い気配で商いが止まる現象は、下記の新しいルールによるものみたいです。私もあまり詳しくないので、下記参照ください。975円という価格は、即時約定可能値幅を超えたということでしょう。

http://www.ose.or.jp/derivative/2102

 

ここまできたら、もしこの逆転現象が引けに発生していたらどうなったか、検証してみたくなりました。論理的に考えれば、本来、高いはずのP900より、P850の方が高ければ、P900を売り、P850を買いたくなります。誰だってこんなおいしい裁定取引の機会を逃すはずがありません。そう考えれば、こういう逆転現象が、もし発生したとしても、長続きはしないでしょう。ただ今回のように多額の不足証拠金が発生して、引けで強制決済が実行された場合、逆転現象が起こる可能性はゼロとは言えないでしょう。

前提条件としては、14日のイブニングの日経平均先物の安値が9160円でしたので、これが15日の日経平均の引け値として、この時点でP900310円、P850970円で引けたと仮定しましょう。この場合、IVを計算すると下記の通りになります。

日経平均9160

限月

プット・コール

権利行使価格

価格

IV

2011/4

P

8500

970

138.72%

-1

 

2011/4

P

9000

310

37.95%

 

1

 

この数値を使って、17(16 + 1)のシナリオを計算すると

 

プット・コール

権利行使価格

S1

S2

S3

S4

S5

S6

P

8500

100

-630

-210

-940

420

-310

P

9000

-6,300

-7,070

-6,680

-7,440

-5,890

-6,660

 

 

-6,200

-7,700

-6,890

-8,380

-5,470

-6,970

 

プット・コール

権利行使価格

S7

S8

S9

S10

S11

S12

P

8500

-520

-1,250

760

30

-820

-1,540

P

9000

-7,030

-7,770

-5,440

-6,210

-7,340

-8,070

 

 

-7,550

-9,020

-4,680

-6,180

-8,160

-9,610

 

プット・コール

権利行使価格

S13

S14

S15

S16

S17

P

8500

1,100

370

-834

903

70

P

9000

-4,970

-5,710

-2,682

-501

 

 

 

-3,870

-5,340

-3,516

402

70

 

となり、明日の損失が最大になるのはシナリオ16402、すなわち、40,200円がSpan Riskとなります。P85970円という価格と、IV 138.72%という数字からとてつもないものが出てくると思われたのですが、Span Riskは実際の43,200円とほとんど変わらないというのはちょっと驚きでした。P85970円と、今日の価格が極めて高くなっているので、明日の価格が上がっても損失はしれている、ということのようです。これに対して、P90の買いからは通常の利益が出るので、差額は通常範囲に収まるようです。ただし、NOVは、310-970= -660660,000円ですので、40,200 – (-660,000) = 700,200円が証拠金となります。97万円で売り、31万円で買っていれば手元にプレミアムが66万円あるので、実質の証拠金額は40,200円ということになります。あくまで、97万円で売れていればということですが、、。

 

以前にも書きましたが、日経平均が大きく動いたときは、証拠金の大部分がNOVになりますので、細かいことはさておき、オプションの価格の動きと証拠金の動きがほぼ等しくなると覚えておくと、何かの時に役立つのではないでしょうか。

 

さて、脇道の方が長くなってしまいましたが、チャムさんお分かりいただけましたでしょうか。

コメント

_ DNI ― 2011/05/16 14:39

調べてみたところ、今回の価格逆転現象は、松井証券のロスカット口座の暴走が一因になっているとの指摘があります。システムにすべてを委ねてしまうと異常事態が発生したときに、制御できないこのようなことが起きてしまうので注意が必要です。やはり最後の判断は人間がするようにしないといけないのではないでしょうか?VBAのプログラムを組んでいても、試してみると想像もしていなかったエラーがしばしば起きます。

皆さんご覧になったかもしれませんが、こちらの当事者の方のブログに値動きを含めた記載があります。
http://opuopu.blog.ocn.ne.jp/blog/2011/03/

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